旅する香りのコレクション——記憶をまとう、私だけのフレグランス

 



旅する香りのコレクション——記憶をまとう、私だけのフレグランス


旅先でふと出会った香りが、 何年経っても心に残っていることがある。 

 それは、風に乗って届いた花の匂いだったり、 カフェのカウンターから漂ってきたコーヒーの香ばしさだったり。 香りは、記憶をやさしく包み込む鍵のような存在だ。


私は旅に出るたび、香りをひとつ持ち帰るようにしている。 

 それは香水やアロマオイルのような“形あるもの”だけでなく、 その土地の空気や、朝の光に混ざった匂い、 雨上がりの石畳の香りのような“感覚としての香り”も含まれる。


パリの朝、焼きたてのバターと雨の石畳

パリを訪れたとき、朝の街角で感じたのは、 焼きたてのクロワッサンと、雨に濡れた石畳の香りだった。

 その香りは、どこか甘くて、少しだけ冷たくて、 静かな高揚感を連れてきた。


帰国後、あの香りを思い出したくて、 バターの香りが立つキャンドルと、 グレイッシュな香調の香水を組み合わせてみた。 すると、あの朝のパリが、ふわりと部屋に広がった。


京都の夕暮れ、白檀と土の匂い

秋の京都では、寺院の境内で焚かれていた白檀の香りが印象的だった。 

 夕暮れの光と混ざり合いながら、 静かに心を整えてくれるような香り。 その足元には、雨上がりの土の匂いも漂っていた。


そのとき感じたのは、時間がゆっくりと流れる感覚。 帰宅後、白檀のインセンスを焚くと、 自分の中のざわめきがすっと静まっていくのを感じる。

 香りは、旅の記憶だけでなく、 心のリズムまでも呼び戻してくれる。


南仏の風、ラベンダーとレモンタイム

プロヴァンスの丘を歩いたとき、 風に乗って届いたのは、ラベンダーとレモンタイムの香り。 

 乾いた空気の中で、ハーブの香りがいっそう鮮やかに感じられた。 その香りは、自由と解放感を象徴していた。


旅先のマルシェで買った小瓶のエッセンシャルオイルは、 今でも私の“旅するクローゼット”の引き出しに入っている。 

 ふたを開けるたび、あの風景がよみがえり、 心がふわりと遠くへ運ばれていく。


香りは、旅の余韻をまとうアクセサリー

香りは、目に見えないけれど、 もっとも深く、感情に触れる旅の記憶

 だから私は、旅先で出会った香りを、 服や小物と同じように“コレクション”している。


その日の気分に合わせて、 パリの朝を思い出す香りをまとう日もあれば、 京都の静けさに包まれたい夜もある。 香りを選ぶことは、その日の自分を整えることでもあるのだ。


まとめ|旅するクローゼットに、香りの引き出しを

クローゼットの中に、香りの引き出しがあったなら。 そこには、旅先で出会った香りの記憶がそっとしまわれていて、 ふとした瞬間に取り出しては、 遠くの街や季節を思い出すことができる。


旅するクローゼットには、服だけでなく、 香りや光、音や空気も一緒にしまっておきたい。 それらはすべて、感性を育てる旅のかけらだから。


次の旅では、どんな香りに出会えるだろう。 そしてその香りは、どんな記憶として残るのだろう。 香りとともに旅すること—— それは、心の奥にそっと触れる旅のかたちなのかもしれない。